中岳へ
登って来た道を下り、赤岳を降りて、中岳との分岐点に向かう途中、
すれ違う登山者の中に3人家族の姿がありました。
旦那さん、奥さん、お子さん、仲むつまじく登山を楽しんでらっしゃる姿が、
微笑ましく目に写ります。
しかし、驚いたのはそのお子さん。
見た目小学生ぐらいの男の子に見えます。
男の子の背中にはハーネスのように縛られたベルトを、
お父さんが持って歩いていました。犬のハーネスのような感じです。
「凄いですね!!」
思わず声を掛けると、笑顔で返す両親と、振り返る事もなく登り続ける男の子。
負けてられないなぁ。
心の中で子供にライバル心を燃やすオッサンが、交錯する瞬間。
登山の楽しみでもあるのかな?なんて思います。
赤岳と中岳の分岐点まで戻ると、綺麗な稜線が出迎えてくれました。
晴れていればもっと綺麗なんでしょうけど、贅沢は言っていられません。
浮き砂利で足を取られながらも、コルの辺りまで降りてきました。
ザックの中から飲み物を入れ換えていると、中岳方面から降りてきた男性も
ザックを下ろし一休み。
「赤岳と方面からですか?」
どこにでもありそうな会話を交わすと、お互いの進行方向の尾根を見て、
「まだまだ先は長いですね。がんばりましょう。」と、
エールを交わし、それぞれに別れていった。
中岳通過する頃には、登山者も増えてきました。
長野県では登山者にいくつかの山を対象に、
ヘルメット着用を推奨しているようです。
そのせいか装着、携帯している人が意外と多いのに驚きました。
僕も鎖場の多い山へ挑戦したくて、今年登山用のヘルメットを
新調したところだったので、心のどこかにあった
「素人のクセに格好から入りやがって」と、
思われるのではないかと言う不安は、緩和されたように思えた。
中岳を越えると、阿弥陀岳が見えてくる。
遠目で見るより遥かに、切り立っているように見えた。
頂上付近はガスに覆われていたが、登っている人もちらほら見える。
コルの部分で食べ物を胃に放り込み、いざ阿弥陀岳へ。
コースタイム的には往復で1時間ほど、
距離的には大した事はないが、赤岳よりコースが確認しずらいところが、
不安を駆り立てる。
大体8部目ぐらいまで到達したころか、ガスが濃くなってきた。
ガスのお陰で高度感は薄れたものの、今度は漠然とした恐怖に襲われる。
頂上までは手の届きそうな距離、
しかし明確でないコースに何度か登り降りしてコースを確かめる。
こんな時に限って他の登山者の姿は無く、
しばらく悩んで結局登頂を断念することにした。
中岳と阿弥陀岳のコルに戻り、後は下山するのみなのだが、
久しぶりの登山で足はガクガク。
行者小屋まで降りてきた時にはギブアップ寸前で、
休憩場のベンチに倒れ込んだ。
空いたペットボトルに水を汲んでいると、
すぐそばで休憩している家族に目が止まった。
あ!この小さな男の子は赤岳ですれ違った家族だと、
気付くまでにそう時間はいらなかった。
その家族と休憩後に出発するタイミングが重なる。
ちょこちょこ歩く男の子のペースがかなり早い。
疲労を隠しながら、負けてられないと僕も着いていく。
しかもこの男の子、歌いながら歩いている。
グウの音も出ないとはこの事である。
しばらく歩いたところで、休憩する家族に話しかけた。
「お子さん凄いですね。いくつですか?」
するとお父さんが、「6才です」
「小学生なんですか?!いや~凄すぎですよ。」と、言った僕に
「幼稚園なんですよ」と、お母さん。
僕の小さなライバルは、末恐ろしい山ボーイでした。
こんな他愛ない会話が、山の思い出を一層濃いものにするのかと思いました。