毎日を明日なきものとして生きる

外遊びの楽しさを探すブログ

限界への挑戦 その3

暑さとの戦いでもあった燧ケ岳からいよいよ下山です。

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ここで現在の時刻とコースタイムの確認をしました。

一ノ瀬休憩所発の乗り合いタクシーの最終は16:30。

コースタイムを計算すると、かなりきわどい時間になってしまいます。

しかし、最悪一ノ瀬休憩所で乗り合いタクシーに乗れなかったとしても、

大清水まで歩くと言う方法も残っています。

しかし、乗り合いタクシーで10分程度の道を、

歩けば50分ぐらいかかります。

しかも、体力が無くなっている終盤だと思うと、

考えただけでゾッとします。

これは何としても最終の乗り合いタクシーに

間に合わせなければという気持ちが、

心に火を付けました。

 

地図の情報通り下り初めにも関わらず、

登山道としては緩やかでした。

序盤快調に下り始めましたが、案の定膝に違和感が出てきました。

歩行時間で6時間を超えると、膝が痛くなることが多く、

日頃意識して鍛えてはいるのですが、体力的なものもあるのか、

やはり6時間の壁はおいそれと打破することは叶わないようです。

まぁ、それも若かりし頃の代償と言う心当たりもあり、

仕方が無い部分でもあると思うので、

それはこれからも仲良くやって行かなくてはならないと覚悟はできています。

サポーターを巻いたりして、誤魔化しながら歩を進めます。

 

登山道は緩やかな分、距離が長く、

ずっと森の中を進むので、周囲の景色が変わらず、

遠くに目標物、例えば山だったり山荘だったりが見えれば、

頑張ろうと言う活力も湧いてくるのですが、

視覚的に小さな達成感が無い環境だと、

だんだん不安を感じる物です。

僕はポイント以外では、時計を見ることはほとんどありません。

それは時間で確認できると、不安になったり、

逆に余裕で力を出し切れなかったりという事が無いようにとの考えです。

本当はそう言うのはいけないのかもしれませんが、

一人で山に登るときはそうしています。

なので、感覚的にはもう着いても良い頃なのにと思っていても、

なかなか到着しない事はしばしばあります。

 

あぁ、時間に間に合わないかもしれない。

そんな気持ちが徐々に強くなっていきます。

諦めて休憩しようか、もう少し歩いてからにしよう。

自問自答を繰り返しながら薄暗い森の中を進みます。

しかし、その薄暗さは大きく発達した積乱雲によるもので、

しばらくして遠くでゴロゴロと低い音が轟いています。

時間、体力、夕立・・・

不安要素が増えた中、下山途中に沼を経由するときに、

雷にあったらどうしようと言う不安が大きくなり、

少しでも急がねばと頑張る気持ちが、

雷のお陰で強くなったように感じました。

 

登山道の傾斜は徐々に緩くなり、ほとんど平に近い状態になってからが、

本当に長く感じられました。

歩いても歩いても周りは木々、

振り返っても木々、

張り出した木の根に足を取られながらも、

ただひたすら前に進むしかありません。

雷鳴は徐々に近くで聞こえるようになってきました。

自分が近づいたのか、雷が近づいてきたのかは、

空がほとんど見えないこの森の中ではわからない状態です。

森の中で多湿なせいか、汗が顔を伝い滴ってきます。

足の痛みも膝以外にも出てきました。

そんな時、前方にちらっと人影を見たような気がしました。

この期に及んで見てはいけない物ではないだろうな・・・と思いながらも、

少し歩を早めその人影を追跡します。

軽いカーブを曲がった先に見えたのは、登山者でした。

しかも、恰好からして女性。

とりあえずホッとしましたが、女性1人という事に引っ掛かります。

心霊的なものは信じないタイプですが、

追いついて声をかけ、振り向いた瞬間、ギャー!なんて言うのが、

心霊物の定番であります。

しかも、森、雷鳴、薄暗い、他に誰もいないと言うシチュエーション、

何か感じざるおえません。

 

しかし、その正体がなんだったとしても、

僕にとっては目標物が出来た事が大きなことでした。

着かず離れず着いていく事で、まだ間に合うかもしれないと

思わせてくれました。

しばらくすると森の木々が途切れ途切れになり、

風景が徐々に変化してきました。

そしてついに、尾瀬沼の周回ルートが見え、他の登山者の姿も見えました。

この合流地点で14:30、まだ間に合うかも!?と期待に喜びも倍増です。

 

合流地点から間もなく、長蔵小屋に到着しました。

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こちらは山荘。

他に休憩所や水場もあります。

ここで森の中で先を歩いていた、正体不明の女性から声を掛けられました。

「雷来なくてよかったですね」

あぁ、良かった心霊的な物ではなかったようです。

これで心置きなく一ノ瀬に迎えます。

彼女のお陰で本当に助かった気分でした。

 

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心に余裕が出来ると、風景にも目が行きます。

あぁ、さっきまであの山に登っていたのか。

思えばあっという間の出来事で、

登ったという証拠は、写真と足の痛みと記憶だけ。

あまり実態のない感動や達成感は、

時に何の為かと考えてしまう事もある。

 

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今年は季節の進行が早く、いつもは見ごろの花も、

すでに終わっていると隣の登山者が言っていた。

そんな中でも、僅かに残った花もいくつか写真に収める事ができた。

 

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先ほどの雷鳴はどこへやら、

幸いどこかに行ってしまい、再び暑いくらいの日差しが降り注がれた。

そして、残された時間はあと1時間。

乗り合いタクシーの最終に乗るため、最後の力を振り絞り、

全力で下り始める。

膝や足の痛みもピークを迎え、再び不安の中ひたすらゴールへ

全力を出し切る。

しかし、先ほどの森と違い、風景に変化がある。

登りに見た木道、水飲み場

そして、川のせせらぎが徐々に大きくなり、

それは同時にゴールが近い事を意味する。

登山道の入り口に設けられた、マップの入った小さな木箱。

その先に見える橋を曲がると、そこにはすでに乗り合いタクシーが停まっていて、

数人の乗客が出発を待っていた。

途中で追い越された他の登山者と顔を合わせ、

思わず「良かった!間に合った!」と喜びがもれた。

 

僕の後に乗客が来ることはなく、

数名の乗客を乗せて、大清水へと向かった。

ほどなくして到着した大清水の駐車場に降りて、

車が濡れていて、水溜りが出来ていることに驚いた。

僕があの時聞いた雷鳴は、一山超えたここに雨を降らせたようだ。

今回の山行は本当に天気に恵まれていたことを

象徴するような出来事だったと思うのであった。

 

おわり

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