毎日を明日なきものとして生きる

外遊びの楽しさを探すブログ

僕の夏休み その2

真夏のギラギラした太陽と、心地よく吹き抜ける海からの風、

田舎の海水浴場は里帰りの家族連れで賑わっていた。

と、言っても混雑とは無縁の、のんびりとした海水浴場。

なんだか子供の頃を思い出すような、夏のひと時。

ごろんと砂浜に寝転ぶと、一面に広がる青空に目を細める。

あぁ、この時間が永遠ならばなぁ。

いつも楽しい事は一瞬の間に過ぎ去っていくものだが、

ゆっくりと流れる時間がただただ心地よい。

砂の付いた浮き輪を片手に、お腹すいたと子供と家路に着く。

そんな一日を合間を縫って、釣りに出かけるのが

ここに来てからの日課となっていた。

 

台風の直接的な影響はなかったものの、

前線を刺激して断続的な雨が降っていた。

しかし、目覚ましで目を覚まし、眠い目をしばしばさせながら

窓の外を覗いた時は雨が止んでいた。

大雨だろうと半ば諦めていたこの日の釣りだっかが、

これはチャンスとすぐに支度を済ませ、車に飛び乗った。

 

前回の川とは違う川に入ろうと、少し時間をかけて車を走らせる。

時折パラパラと雨がフロントガラスを叩くが、

渇水からの久々の雨、期待するなと言っても無理な話である。

川沿いの細い道に入り、川が見えるところまで車を進めて唖然。

濁流が川幅を広げ、僕の期待までも一緒に飲み込んだ。

山を越えてきたこちらは、昨晩だいぶ降った様子だった。

さてどうしようかと頭を抱え、雨が少なかったであろう

前回と同じ川に向かうことにした。

 

雨脚はひどくなる事はなく、断続的な雨は続いていた。

車を走らせながら、打つポイントは決まっていて、

車を降りて支度を済ませると、山道をわき目もふらず

入渓のポイントまで急いだ。

僕の地元より朝晩は過ごしやすいこの地だが、

この日はTシャツだけだとひんやりと感じるほどだった。

 

目的の入渓ポイントに入ると少し雨脚が強くなった。

気にすることなくキャストを始め、続けて流し打っていく。

相変わらず幼魚姿がルアーの影を追ってくる。

1つバラしたところで、急に雨脚が強くなった。

オーバーハングした木の下で届く範囲にキャストをしながら、

雨宿りをして雨をやり過ごす。

先へ先へと焦る気持ちがでるところだが、

まだ始まったばかりで、生憎雨具も持っておらず、

早々にずぶ濡れになるわけにはいかない。

足元に飛んできたカエルを観察しながら、

こいつらは待ちに待った恵みの雨なのだろうと、

雨音をBGMに妄想するのも悪くないなんて、

カッコつけて気取っていた。

 

水面に広がる雨粒の波紋が小さくなったのを見計らって、

再び上流を目指す。

前回同様ルアーへのアタックは多く、

その多くが針に掛るのが困難な幼魚ばかり。

こんな時シングルフックを恨むこともあるのだけど、

そう言うやる気のある将来有望な若者は、

僕に釣られなくてもいいのだろう、なんて思う事もある。

 

長い渕を沈み根をかすめて打って行くが、

有望と思われていたポイントからは、

幼魚すら出てこない無反応。

渕の上流が小さな落ち込みになっていて、

その先は大きく左に曲がっている。

その小さな落ち込みに数度キャストしながら

次は本命のスポットにキャストするぞと思うや否や、

根掛して、ザバザバと本命を潰しながらルアーを回収する羽目になった。

あぁ・・・自分の情けなさに落胆しながら、

インチェックして、ルアーを変えた。

先ほど根掛した付近から対岸に渡り、

キャストして届くぐらいの小規模の落ち込みからの

流れを攻めるのに、半畳ほどの石の上にかがむように乗った。

1投手前を軽く探った時に、ほとんど上がっていた雨が、

再び強く川面を波立たせるように突き刺さる。

続けざまに核心のスポットにルアーを入れると、

水中にスッとその姿を消した。

川面の波立ちでルアーのポジションも動きも

目視することができなかったが、最近なんとなくわかってきた

その動きを頭の中で描きながら軽くアクションを加える。

次に今年になって覚えたルアーの特徴を生かした動きをさせると、

目が覚めるほどのアタリが竿に伝わった。

核心を持てたわけではなく、半信半疑で合わせると、

グッと竿先とラインが一直線になるほどの重み乗った。

しかし、走る事は無く、ジワリジワリだが寄ってきてしまう。

もしかしたら流木か?と言う疑問も過る中、

足元までラインが寄ってきた、その川面に雨粒の波紋の隙間から

覗かせたその姿に、心臓が止まりそうになる。

 

魚だ!

 

背中のランディングネットに手を回し、

そのランディングネットを水中に入れ、ランディングの態勢に入る。

川面を割って見えた魚の顔を見てすぐある事に気づいた、

ネットに入らないと言う焦りを隠すように、

少々強引に引き寄せ、ネットに入れようとすると、

間口30cmのネットに収まりきらず、ランディングをミスしてしまった。

この事で魚の闘争本能に火を点けたのだろうか、

物凄い勢いで狭い川幅を上流に走り出した。

渓でこんなにドラグを出されることがなく、

アドレナリンが噴出しているのが分かるくらい興奮しているのが分かった。

1回目のランを堪え、リーリングを始めると反転し、

今度は大きな石の根に入ろうと、底に突っ込もうとする。

リーダーがこすられる振動が伝わってくる。

寸でのところで抑え込み、三度反転し上流に走る。

何度、根に潜られそうになったか、ふと竿に目をやると、

大きく弧を描く竿の曲がりに、また興奮をする。

ようやく魚の勢いも収まったその時、

2度目のランディングで頭からネットにねじ込んだ。

 間口は魚の大きさより小さいが、一度ネットの中に入れば

間口以上の魚が収まるように編んだ網は、

こんな魚を想像していたんだ。

いつかこんな魚を釣るんだと夢見て、

ようやっとその夢が叶い、その夢の魚を収めることができた。


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浅瀬に横たえ写真を数枚撮る。

その魚体を観察しながら、まだ眺めたいと言う欲求を抑え、

流れの緩いところで、無駄にやり取りを長引かせ体力を使ってしまった

魚の体を支えながら、体力の回復を待った。

その時間は長く、徐々に強まる雨粒が僕の背中をさらに強く叩く。

どのくらいそうしていたのだろう。

僅かな時間だったのかもしれない。

体を揺らし、自力で泳ごうとするのを見て、

魚の目の前の邪魔になりそうな石を2つ3つどかし、進路を作ってやる。

ゆっくり泳ぎ出す魚の背中を見ながら、

自然と「ありがとう」と声が出た。

置いてあった竿拾うと、雨空高く両手を掲げ、

「よっしゃー!」と叫んだ。

その声は雨音にかき消され、再び衝撃が起こる前の川に戻る。

乱雑に出されたラインを直しながら、

手が震えているのに気付いた。

心臓の鼓動が高鳴り、この時釣った魚の価値みたいなものを

ようやく噛みしめられたような気がした。

 

つづく