今年の秋は例年になく山へ通っている。
特に何があったわけでは無いのだが、
なんとなくそんな気分で、山に行けば紅葉が出迎えてくれる。
安っぽい言葉を使えば、癒しと言ったところだろう。
そんな僕を見てのことか、かみさんが山に行きたいと言い出した。
春、夏と低山に誘われることはあったのだが、
かみさん自身年に1~2度しか山に登る事はなく、
どこに行こうかと考えた末、尾瀬ヶ原に行く事にした。
尾瀬ヶ原はかみさんが行きたいと言っていたし、
丁度紅葉も良い頃という事にも後押しされた感はある。
あまり混雑しない晩秋を狙い、今回の山行と相成った。
尾瀬は今年2回目となる。
7月は燧ヶ岳に登るために、尾瀬沼方面へアクセスポイント、大清水より入山した。
アクセスポイント鳩待峠からスタートする。
1度は行ってみたいと思っていたが、登りたい山が多すぎて、
優先順位は年々下がって行く。
そんな思いもあった中、かみさんからの誘いは、
まさに好都合だったに違いない。
ゆっくり自宅を出発して、登山口に立ったのは10時半を回っていた。
こんなのんびりした感じも、たまには良いかなぁと思えるようになった。
登山道に入ると紅葉した木々がちらほら見えてきた紅葉具合は、
やや終盤にさしかかっていた。
朝の冷え込みも秋の終わりも近い事を語っている。
人の手が入っているのにも関わらず、他の山よりも自然がそのままの感じがした。
人の手が入る事で保たれる自然、それが複雑な気もするが、
荒れていない自然を見ると、それはそれで嬉しいものである。
川沿いの木道を歩き、やがて山荘が現れる。
山荘はすでに今期の営業を終了したようで、
窓に板が打ち付けてある山荘もあった。
この山荘を抜けると、いよいよ尾瀬の代名詞でもある湿原が現れる。
しばらく湿原の真ん中に敷かれた木道を進むと、
目の前に燧ヶ岳が見えてくる。
まるで草原を走る鉄道のように、
燧ヶ岳に向かって真っすぐ伸びるその木道は、
映画スタンドバイミーのように線路を歩いて
旅をしているような気分だ。
水芭蕉?
水生植物の葉が水面で色づいていた。
振り返ると見えるのが、
至仏山。
100名山にも選ばれている尾瀬を代表する山である。
至仏山と燧ケ岳を繋ぐ、真っすぐ伸びる木道。
周囲は湿原が広がるだけで、一見代わり映えのしないように思えるが、
なんだろうとても雰囲気のある場所で、
時間を忘れただただ遠く景色を眺めながら歩けてしまうのは
何とも不思議な場所である。
朝は曇っていた空も、青空が広がってきた。
あの山頂に数が月前の暑い日に立って、
眺めていたあの湿原に今はその山頂を見上げている。
あの時は緑色が一面に広がっていたけど、
数か月の後には茶色くその姿を変えていた。
それはやがて一面白く染まる事だろう。
四季の変化、それを近くに感じられるのが、
多くの人が尾瀬に魅了される理由がここに集約されているのかと思う。
1人での山行が多く、挑戦的な山を優先させることが多いのだけど、
山の楽しさはこういうところにあるのかと思った。
そんな切っ掛けをくれたかみさんに感謝しなきゃなぁ。
この日の目的地、竜宮小屋に到着したのがお昼過ぎ。
シーズン終盤、それでも数組の登山客が休憩をしていた。
お湯を沸かし、カップラーメンの準備をしながら、
たわいもない話をする。
じんわり汗ばんだ体を、晩秋の山の風が吹き抜ける。
適度に冷えた体に、3分経ったカップラーメンのフタを開けると、
何とも言えないうまそうな湯気が立ち上る。
午後から天気が下り坂の予報。
そそくさと昼食を済ませ、復路の途についた。
心惜しみながら遠ざかる燧ケ岳を振り返る。
逆さ燧と言うポイント。
季節が違えば、また違った表情があるのだろうと、
まだ帰路の途中なのに、そんな気持ちにさせてくれる。
かみさんの念願かなったこのハイキング。
それは僕にとっても念願だったのかもしれない。
またいつか訪れたい、そんなこの場所には、それなりに理由がある。