震える手で胸ポケットから取り出した画面のくもりを拭い、
カメラモードにして横たわる手にした魚を記録に残す。
浅瀬に横たわらせた事が嫌だったのだろう、
その魚は体をくねらせ、体を立てようとする。
ごめんよ。ちょっとでいいから付き合っておくれ。
魚をなだめながら、再び態勢を横にして、
素早く写真を数枚撮る。
スマホを胸ポケットに戻し、ネット越しに手で魚体を支え、
ゆっくり川底に戻っていくのを確認して、
薄暗い渓から見上げた空は、すでに明るく、
雲の切れ間に青空を覗かせていた。
上流へ向かい、再び攻め上がっていく。
しかし、最初にあんなクオリティーの魚と、
たまたま出会えただけで、厳しい状況は変わりなかった。
見た目ここぞと言うポイントは、ことごとく不発。
足元にも魚影は見られず、チェイスの影もない。
最初の勢いはどこへやら、意気消沈とはこのことで、
足取りも重く、今日はあの1尾で終わりにしても
良いなんて思いも頭を過る。
だけど、さっきの魚が頭の片隅から離れない。
その思いだけが推進力となり、歩みを上流に向けた。
過去にコンスタントに魚がストックされている場所、
ここで出なければ諦めよう、
そう思うのも自然な流れであった。
事実朝一の1尾から、チェイスの影も見られなかった。
1つ背を超えると、二つの落ち込みがあるプールがある。
少しずつ落とすポイントを変えながら、丁寧に打って行く。
怖いのは根掛かりで場を荒らしてしまう事、
しかし最深部にコンタクトしなければ結果に結びつかない、
そんな気がしたからこそ余計に慎重になる。
あと数投、ラスト何投は無限を意味する。
釣人あるあるに失笑しつつ、その意味を噛みしめていた。
時間的にもあと数投で切り上げなければならない。
そんな事が思い浮かんだ刹那に訪れた竿への衝撃。
苦労の末、やっと掴んだ2尾目でこの日の釣りを終えた。
厳しい釣りではあったものの、衝撃的で記憶に残る釣行となった。
つづく