季節外れの寒気に、開花を控えた桜もたじろいだ3月の末。
5年ぶりに転勤離れていた友人と、久々の釣行となった。
雪をちらつかせる早朝の集合場所、
そこは転勤前のその友人とよく待ち合わせた駐車場。
しばらくぶりの駐車場はだいぶ様変わりしていたものの、
早朝の暗がりに僕を待つ友人の車が、ポツンと停まっているその光景は、
どこか懐かしい。
車の上にうっすら積もった雪が、深夜に雪を降らせたことを教えてくれた。
先日までの春のような気温から一変、真冬に戻ったかの気温。
その日の釣りは厳しいだろうと容易に想像がついたが、
そんなことは全く気にすることなく、とりとめもない会話が車内を取り巻く。
川沿いに走る国道に設置された温度計は、マイナスの気温を示していた。
釣場に到着すると、周囲の山々は昨晩の雪で白く化粧をしている。
川辺の土手や田畑は霜で白く、川岸のよどみには氷が張っていた。
周囲がだいぶ明るくなる時間、僕もこの日が今シーズン最初のキャストをする。
想像していたより寒くなく、その1投1投で徐々に体も温まっていく。
低水位のお陰で、魚が付きそうな流れは遠く、待望の朝一に魚からの反応は無かった。
この川は5年前、友人と本流トラウト始めた場所。
試行錯誤でポイントを探索し、その面白さを覚えた場所である。
転勤する前に友人の為に作った、ランディングネットは、
転勤先での使う場所がなく、戻ってきてようやく活躍の場を得られた。
竹ランディングネットを作り始めて2本目のそのネットはまじかで見ると、
その時の思い出がぽろぽろとこぼれ落ちた。
ポイントをいくつか周るが、魚からの反応は未だにない。
こんな状況もいたって普通といったところ。
毎年この時期にこの川を訪れているからこそ、
この川の厳しさを身をもって知っているのである。
2人一定間隔を保ちながら、時々先行を交代しては打ち進んでいく。
そろそろ飯にしましょう。
そんな言葉をかけようか考えていたとき、
横の視界に友人が竿を曲げる光景が写った。
おお!
川の流れに消されぬ声で叫び、自分のルアーを急いで回収して、
彼の元へ走り寄った。
近づいてやや後方からやり取りの一部始終を見守る。
竿の曲がりから、魚は小さくないと見て取れた。
そして、僕が作ったランディングネットに、魚を滑り込ませた。
やった!
交互に二人の口をついたのは、その言葉だった。
友人として、ランディングネットのオーナーとして、一釣り人として、
彼の存在を改めて思い知る。
そして、お帰りなさい。
また、あの楽しさが戻ってくるのかと、そんな予感は現実となった。
釣りの帰り、二人で温泉に入り、居酒屋で祝杯を挙げる。
こんな釣りを通じての楽しさを、僕は探していたのかもしれないと思える、
長い長い一日を車中泊の車内にて思うのでした。
いろいろとありがとうございました。