久しぶりの渓で、魚との出会いに足取りも軽く、
さらに上流へと進んで行く。
この渓は切り立った崖に阻まれ、水辺へのエントリーポイントが少ない。
一度水辺に降りると、かなりの距離を戻ってこなければならず、
ポイントの選択をより慎重にしなければ、
時間だけを消費するはめになる。
崖の上を走る山道から水辺を眺め、水量による流れの形成具合を確認しながら進む。
そんなことをしていると、深い谷にも日の光が落ちてきた。
所要があるので、この日は時間もなかったが、
さほど落胆も焦りはなかったのは、
その時間帯で1つ核心のポイントが頭の中にあったからである。
それを見越して、そのポイントは飛ばしてあったのだ。
この日最後のポイントと心に決め、
このシチュエーションでは絶対的なルアーへと取り換える。
一応手前を軽く打つが、社交辞令のようなもので、
一刻も早く核心のポイントへ打ち込みたい衝動を
ぐっと堪え、ひとつ深呼吸をする。
バックハンドから放たれたルアーは、白泡の中に消える。
スッと落とし込み、1つ目のトゥイッチに衝撃が竿を介して伝わった。
今日の釣りを考えたら、これで十分と思えるほど。
遠征で来たからこその、出会い。
写真を数枚撮った後、ラインチェックをして、すぐさまキャストを再開する。
方法は先ほどと同じ、キャストで少しずつ落とすポイントを変える。
その数投目、ゴンと言う衝撃の後、即座に合わせると、根掛のような重み。
しかし、のそのそと動き出すところを見ると、どうやら本命が来たようだ。
ここ最近は竿のパワーが強すぎて、簡単に寄ってくるのが常だっただけに、
あ!寄ってこない!と、その時思った。
流れに乗り、下流へと走る魚を、強引に向きを変える。
後ろに移動しながら、太い流れから引きはがした。
久々に深い曲がりをする竿を横目に、さらに気持ちも高揚する。
浅瀬に追い込むように、魚を足で囲むと、
「よっしゃ!」と自然に口を突く。
間違いなく思い出の1尾となる魚が、
遠征と言う特別な釣行での出会いで、
自分の中の価値観を凌駕するほどの衝撃を覚えた。
いろんなタイミングで、再び出会うことができたこの渓の魚。
そんな出会いに、感謝しなければならない。
また来年、来られるようなら、また遊ぼう。